ここでは未発表の小作品を紹介しています。
小さな小さなお話です。

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──おはなし──

2022年・前半のおはなし                    「おとうさん」

南のサバンナに、気の弱いライオンが住んでいました。

このライオンはとても弱虫でした。

夜のなるとお化けがこわくて、外へ一歩も出る事が出来ません。

だから、ほかの動物たちにいつもバカにされていました。

「弱虫ライオン、弱虫ライオン」

今日もハイエナたちがからかいます。

ライオンだってからかわれて、くやしくないはずがありません。
大きな声で「ガオッー」ってほえ返しててやりたいのですが、とっても気が弱いので、一言も言い返せませんでした。

気の弱いライオンは弱虫だけど、子どもがとっても大好きでした。
いつも小さい子どもたちを、あたたかく見守っていました。

泣いている子どもには、やさしく声をかけ、
さみしそうにしている子には、しっぽで遊んであげました。

けんかをしているこどもには、一人ずつ意見をじっくりと聞いてあげました。
なやんでる子どもには、相談にのってあげました。

気の弱いライオンは、本当に子どもたちが大好きでした。
ざっそうが生えて、遊べなくなった広場を見ては、草をむしり、
大きな石がころがっている道があれば、石をどかし、
いつもいつも、子どもたちの事を考えていました。

そんなライオンの事を、子どもたちはいつしか、「おとうさん」と呼ぶようになりました。

おとうさんと呼ぶ、子どもたちのお父さんやお母さんも、いつの間にかこのライオンの事を「おとうさん」と呼ぶようになりました。

もう、弱虫ライオンだなんてからかったりする動物はだれもいません。

今日もみんなが、「おとうさん」と声をかけてくれます。

気の弱いライオンは、本当はやさしいライオンだったのです。

                            おしまい