2022年・後半のおはなし 「忘れられない船長」
あれから何年の月日が流れただろうか…
あれは、ちょうど今ごろの寒い季節だった・・・
突然、ゴーッというすごい音を立てて、大きな地震が島を揺り動かしたかた思うと、
海岸に猛スピードで波が襲ってきた。
全ての物を破戒しつくし、島は全滅だった。
人々も家畜も全て、この島から消えて無くなっていた。
そして、その代わりに1隻の船が島の海岸に打ち上げられていた。
その船は、この辺りでは今まで見た事もない船だった。
この噂は、たちまち広がり、野次馬のごとくこの船を人目見ようと、あちらこちらからやってきた。
しかし、船は今にも壊れそうなくらい傷んでいて、誰も中へ入る事は出来なかった。
何ヶ月か経ったある夜の事、この船に明りが灯っていた。
私は誘われるように船の中へ入って行った。
「♪酒を飲むぞ〜オーッ」
「今日はめちゃくちゃいい日だぜ〜」
「オーッ!」
船の中では酒盛りでにぎわっていた。
私に気づいた船長らしき人が
「ようこそ、我船へ、さぁ客人よ、今夜は一緒に祝ってくれないか」
と、グラスを私に差し出してきた。
どうやら船長に初孫が生まれたらしい。
私は何時間か一緒に楽しい時を過ごした。
チェスで船長に勝った私は、船長から友情の印ということで
「これで君はいつでもこの船の仲間さ、今度またここへ来た時はぜひ立ち寄ってくれ」
そう言うと、彼は私に銀の鍵を渡した。
次の朝、役人達が船を解体し持ち去って行った。海岸は静かな波が打ち寄せられているだけになった。
そして、何年も経ったある日、反対の側の国の海岸に見た事もない船が打ち上げられたと、ニュースで流れた。
私はハツとした。
何故ならテレビに映った船は、私が楽しい時を過ごした、あの船だったからだ。
私は急いで机の中から、あの時船長からもらった鍵を持って、ニュースの現場へ向った。
船の中には、船長らしき1体の骸骨が帽子と制服に身を包まれて船長室に静かに座っていた。
そして、手には銀の鍵が握り締められていた。
おしまい
──おはなし──
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