2021年・前半のおはなし 「草木たちの鼓動」
とある街外れの大きなお屋敷がありました。
そこには、この春から小学生になる女の子が住んでいました。
昨日まで元気だったのに、女の子はとても重い病気にかかってしまい、外へ出られなくなってしまいました。
このことを知って、一番悲しんだのは庭の草木たちでした。
女の子が生まれたときからずっと、見守り続けてきた、つばき、梅、桃、桜、藤。
女の子といつも遊んだ、すみれ、チューリップ、あさがお、ひまわり、コスモス。
「小学校に行くことを楽しみにしていたのに・・・」
草木たちは女の子に、たくさんのエールを送りました。
つばきはいつもの年よりも、たくさん花を咲かせました。
梅が甘い香りを届けました。
桃がお節句のお祝いをしました。
桜がかわいい花びらを届けました。
藤が夏の厳しい暑さを和らげました。
庭にはどこからやってきたのか、たんぽぽが仲間入りしました。
女の子は庭の草木を眺めていると、とても気持ちがよくなることに気付きました。
窓から眺めているだけだった女の子は、そっと手を出してみました。
とてもいい気持ちです。
ベッドの上で寝てばかりだった女の子は、思い切って外へ出てみました。
庭の草木たちが、一斉に歌いだしました。
「♪〜サワサワサワ・サラサラサラ〜」
「♪〜シュルルルルル・シャララララ〜」
いつの間にか女の子から、はなうたが流れだしました。
草木たちと一緒に、大合唱の始まりです。
お客様のように耳を傾けていたかえるや虫たちも、いつの間にか一緒に歌っていました。
そしていつの間にか女の子は、元の元気な女の子に戻っていました。
おしまい
──おはなし──
ここでは未発表の作品を紹介しています。
小さな小さなお話です。